玄関の鍵を閉めた瞬間、背中にひやりとした気配がまとわりついた。 「……また、来たのね?」 私は靴を脱ぎながら、誰にともなく声をかけた。 https://youtu.be/OlKQaeg3lxY ここ半年ほどだろうか。夫が単身赴任になってから、夜になると“影”が私のそばへ寄ってくるようになった。 姿は見えない。でも、確かに感じる。 気配と、温度と、そして……触れ方。 「今日だけはやめてよ、疲れてるんだから……」 そう言いながらも、心のどこかで期待している自分がいる。 寂しさは、人を弱くも、奇妙に大胆にもする。 リビングの灯りをつけると、部屋の隅の暗がりがゆらりと揺れた。 「ちょっと……聞いてる?」 私はため息をつき、ソファに身を沈めた。湿った空気が肌を撫でる。 ――スッ。 肩に、ふわりと何かが触れた。 「だから、やめてって言ってるのに……」 声は震えていた。拒む言葉と裏腹に、肌が敏感に反応してしまう。 影は、まるで私の心を読んでいるみたいに寄り添ってくる。 子どもの頃、夜中に母の布団へもぐり込んだ時のような温かさ。 でも、そこにいるのは“人”ではない。 「ねぇ……どうして私なの? 私、そんなにすがりつきやすそうに見える?」 質問しても、返事はない。ただ、私の首筋すぐ近くで空気が揺れる。 そして――背中へまわりこむように、影が寄り添った。 「ちょっと……密着しすぎよ……」 苦情めいた声なのに、自分でも気づくほど甘い響きを帯びている。 影の動きは軽く、けれど確かに“触れられている”。 布越しに感じる、温かな手のひらの形。 私は胸の鼓動を必死に抑え込んだ。 「だめ……そんなふうにしたら……誤解しちゃうでしょ……」 影はゆっくりと、私の肩に顔を寄せるような気配をつくった。 誰かに抱きしめられるような包囲感。 孤独な夜に、体温だけが満たされていく。 「もう……ほんとに……」 私はそっと目を閉じた。 影が求めてくる温もりは、夫とは違う。 でも、嫌じゃなかった。 むしろ、触れてほしくないはずなのに、心の奥がじんわりとほぐれていく。 ――カタ。 玄関のほうで、何かが倒れる音がした。 影がふっと離れ、部屋の隅へと戻っていく。 「え……もう行っちゃうの?」 思わず漏れた言葉に...