「麗子さんは、いつも隙がなくてお綺麗ですね。まるで、このお店にあるアンティークジュエリーみたいだ」 四十六歳の麗子(れいこ) 四十六歳の麗子(れいこ)は、自身が営む小さなアクセサリー店で、常連客からの褒め言葉に静かに微笑んで応えた。 手入れの行き届いた肌、一糸乱れぬまとめ髪、仕立ての良いシンプルなワンピース。周囲から「魅力的な大人の女性」として憧れの目を向けられることは、確かに誇らしかった。けれど、一人の夜、洗面所の鏡に向かうと、ふと息苦しさを覚えることがある。 「アンティーク、か……」 美しいけれど、もう二度と形を変えることのない、時間が止まったガラスケースの中の品物。傷つかないように、老いを見せないようにと、自分自身に完璧な鎧を着せ続けてきた結果、私は「綺麗なドライフラワー」になってしまったのではないか。そんな焦燥感が、最近の麗子の心を密かに蝕んでいた。 麗子の心を密かに蝕んでいた。 ある雨上がりの午後。ふらりと店に立ち寄った近所の花屋の店主が、「店先に置くといいよ」と、小さな素焼きの鉢植えをプレゼントしてくれた。 細かく尖った緑の葉が茂る、ローズマリーの鉢植えだった。 「ローズマリーはとても生命力が強いから、麗子さんのように凛とした人に似合うと思ってね」 店主が帰り、静かになった店内で、麗子はその鉢植えをカウンターの隅に置いた。 そっと指先で葉を撫でると、ツンとした、けれど頭の中が透き通るような鮮烈な香りがふわりと立ち上った。 その瞬間、ふいに二十代の頃の記憶が蘇った。 お金はなかったけれど、休日のたびにベランダで育てたハーブをちぎって、不格好なフォカッチャを焼いていたあの頃。粉まみれになって、髪もボサボサで、失敗ばかりで泣いたり笑ったりしていた自分。完璧ではなかったけれど、あの頃の私は確かに、土に根を張り、呼吸をして生きていた。 ローズマリーの花言葉は『記憶』。 鮮烈な香りが、鎧で覆い隠していた「人間らしい私」をノックする。 麗子はふと、後頭部をきっちりと留めていたバレッタに手を伸ばし、ゆっくりと外した。 するりと肩にこぼれ落ちた髪は、少し癖があって、完璧なシルエットからは程遠い。けれど、首筋を撫でる髪の感触と、ローズマリーの爽やかな香りが混ざり合い、強張っていた肩の力がふっと抜けていくのを感じた。 美しいアンティークでいる必要なんてない。 完璧に取り繕うこ...