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六畳間の大きな「余白」


「はい、じゃあ運び出しますね」 作業着姿の業者さんが二人掛かりで、重厚な四人掛けのダイニングテーブルを玄関から運び出していく。 四十七歳の由紀(ゆき)は、その背中を静かに見送った。

一年前、十五年連れ添った夫と離婚し、この小さな1LDKのマンションに引っ越してきた。その時、どうしても捨てられずに持ち込んでしまったのが、結婚当初に奮発して買ったあのテーブルだった。 一人暮らしの部屋には不釣り合いなほど大きく、リビングの半分を占領していた。けれど、それを手放すことは、「家族だった時間」を完全にゴミ捨て場に放り投げるようで、ずっと決心がつかずにいたのだ。

テーブルが消えたリビングは
テーブルが消えたリビングは


テーブルが消えたリビングは、ひどくガランとして見えた。 ぽっかりと空いた空間。床には、テーブルの脚が置いてあった四つの丸いへこみ跡が残っている。由紀は雑巾を固く絞り、その跡を丁寧に拭き始めた。

拭きながら、ふと思い出す。 あの大きなテーブルで、私はいつもキッチンに一番近い端の席に座っていた。 夫のグラスが空けばすぐにお酒を作りに行き、おかずが足りなければ冷蔵庫へ走る。自分の料理が冷めていくのを横目に、いつも誰かのために動く準備をしていた。家族の象徴だったはずのあの机で、私が本当に心の底からくつろぎ、味わった時間は、果たしてどれくらいあっただろうか。

「なんだか、すごく広くなったな」

拭き掃除を終えて立ち上がると、窓から差し込んだ秋の午後の日差しが、何もないフローリングを明るく照らしていた。

離婚した当初は、何かが「欠けた」のだと思っていた。 夫がいない、家族という枠組みがない。世間から見れば、バツイチの私は「マイナス」を背負った人間なのだと。 でも、この広々としたリビングの床を見て、ふと気がついた。 これは「喪失」ではなく、「余白」なのだと。

バツイチの私
バツイチの私


誰かの期待に応えたり、顔色をうかがったりするために、びっしりと書き込まれていた私の人生のスケジュール帳に、ようやく、真っ白なページができたのだ。 何を描いてもいいし、何も描かずにただ風を通してもいい。誰かに気を遣って端っこに座る必要のない、私だけの豊かな余白。

由紀は、空いたスペースに、先日自分のためだけに買った一人用の小さな丸テーブルと、座り心地の良いラウンジチェアを置いた。 ゆっくりとお湯を沸かし、自分のお気に入りのマグカップで紅茶を淹れる。

これからは、一番良い席に座ろう。 温かい紅茶の香りに包まれながら、由紀は新しくできた人生の余白に向かって、深く、穏やかな深呼吸をした。


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