夫の転勤をきっかけに、義父との同居が始まった。 七十を過ぎても背筋が伸びていて、無口だけれど穏やかな人。 最初は距離を保っていたが、毎日の暮らしの中で、少しずつ言葉を交わすようになった。 https://youtu.be/TxANNQ-bE0k ある夜、夫の帰りが遅く、二人で夕食を囲んだ。 義父は湯気の立つ味噌汁を見つめながら、「おまえの作る味は、どこか懐かしいな」と呟いた。 その一言に、胸が温かくなった。 “お義父さんに褒められて嬉しい”――ただ、それだけのはずだったのに。 翌朝、洗濯物を干していると、背後から「重くないか」と声がした。 振り向いた瞬間、義父の手が私の手に重なった。 ほんの一瞬だったのに、息が止まるほど心臓が跳ねた。 ――そのまなざしが、優しすぎたのだ。 夜、台所の明かりの下で二人きりになると、どうしても意識してしまう。 視線が合うたび、心の奥で何かが揺れる。 夫に対する罪悪感と、女としての寂しさがせめぎ合う。 「お義父さん、そんな目で見ないでください…」 そう言いかけて、唇が震えた。 でも、彼はただ静かに笑って、「おまえはいい嫁だよ」とだけ言った。 その言葉が、余計に切なかった。 “いい嫁”でいることと、“女”でいること――その境界が、もうわからない。 五十歳、まだ女でいたい。 その想いが、誰にも言えない小さな罪を生み落としていく。