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娘には内緒です。「義理の息子に膝枕してあげました。」


「あのね、こんな話、誰にも言えないんだけど…ちょっと聞いてくれる?」


昼下がりのリビング。カーテン越しに射し込む柔らかな日差しが、私の膝の上で眠る義理の息子、翔太の顔を照らしていた。娘の彩香が結婚してまだ一年。慣れない結婚生活に追われながらも、夫婦仲は良好だと言っていたけれど、翔太は最近、彩香には言えない仕事の悩みを私に相談するようになった。


「義母さんには何でも話せそうで…」と彼が言った時、正直少し誇らしかった。親子ほど年が離れているのに、彼は私を信頼してくれている。そう思うと、母親のような気持ちが湧いてきた。でも、どこかでそれだけじゃない感情も混じっている気がして…自分でも戸惑っているの。




「大丈夫だよ、翔太君。そんなに気を張らなくても、ちゃんと頑張ってるじゃない。」


「でも、彩香には言えないんです。弱音を吐いたら、がっかりされそうで…。」


彼がそう言って俯いた時、無意識に手を伸ばして彼の髪を撫でていたの。まるで、幼い頃の彩香を慰める時のように。


「疲れてるなら、少し休みなさい。ここでいいから。」


膝を軽く叩いて促すと、彼は少し驚いた顔をしたけれど、すぐに私の膝に頭を乗せた。あの瞬間、心臓が少し早くなったのを覚えている。




翔太が穏やかな寝息を立て始めると、私は彼の髪に触れる自分の手が止められなくなっていた。ふわりとした髪の感触が指先に伝わるたび、胸の奥がざわつく。この感覚は、どう説明したらいいのかしら?


「あの時、なんで膝を貸しちゃったんだろう…」


独り言のように呟いてみても、答えは出ない。たぶん、彼があまりにも疲れた顔をしていたからだと思う。でも、彩香に知られたら、きっと怒られる。嫉妬されるかもしれない。


「もし彩香が知ったら、『お母さん、何してるの』って言われるわよね。」


そんなことを考えると、罪悪感が胸に広がる。でも、不思議と後悔はしていないの。




彼が目を覚ましたのは、それからほんの数分後だった。


「あ、すみません…義母さん、寝ちゃってました。」


「いいのよ。ちょっとは楽になった?」


「はい。…ありがとうございます、本当に。」


彼の目がまっすぐ私を見ていた。その視線に、私は少しだけ息を呑んだ。こんなに真剣な目を向けられるのは久しぶりかもしれない。


「また辛くなったら、いつでも来なさい。私はいつでもここにいるから。」


そう言った自分の声が、どこかで震えていた気がする。




これが、私の秘密よ。こんな話、誰にも言えないわ。だって、これが普通の家族の絆なのか、それとも別の何かなのか…まだ自分でもわからないんだもの。でもね、今はこれでいいの。私はただ、彼の力になりたかった。それだけのこと。


「ねえ、これっておかしいかな?あなたなら、どう思う?」




「…それからね、あれから何度か翔太君と話す機会があったの。」


私は紅茶をすすりながら、ぽつりぽつりと話を続けた。冷めかけたカップの底には、薄茶色の葉っぱが浮かんでいる。つい最近も、彩香がいない隙に彼がふらりと訪ねてきたの。まるで、相談する相手を求める子どものように。


その日、玄関で彼の顔を見た瞬間、胸が少しざわついたのを覚えている。彼の表情には疲れと迷いがにじんでいて、「ああ、また来たんだな」って分かったの。




「義母さん、また甘えに来ちゃいました…すみません。」


「いいのよ、そんなに気を遣わなくて。どうぞ、入って。」


リビングに通して、いつものようにお茶を淹れた。ほんのり香る緑茶の湯気が、私たちの間の緊張をほぐすような気がしてね。彼は、ぽつりぽつりと最近の仕事の話を始めた。部下とのトラブルや、上司の期待に応えられない焦りの話。


「義母さんって、いつもこんなふうに、彩香にも相談に乗ってあげてたんですか?」


「ええ、彩香もよく甘えてきたわ。でも、今はもうそんなことないわね。あの子、立派に大人になったもの。」


そう言いながらも、心の中では、翔太が頼ってくれることにほのかな喜びを感じていた。彼が「母親代わり」として私を見ているのなら、それでいい。そう自分に言い聞かせるのに、心のどこかで違う感情が湧き上がるのを抑えきれないのよ。




「義母さん、今日は少しだけ、ここで横になってもいいですか?」


「あら、また膝枕するつもり?」


冗談めかして笑いながら答えた私の声が、少し震えていたかもしれない。でも彼は真剣な顔で、「いいんですか?」と聞き返してきた。


「いいわよ。ほら、どうぞ。」


翔太が再び私の膝に頭を乗せた瞬間、鼓動が少し早くなるのを感じた。彼の髪に触れる指先が、また同じように止められなくなっていたの。


「義母さん、やっぱり安心します…ここだと。」


彼のその言葉に、私は「どうしてこんなに優しくしてしまうんだろう」と自分を責めるような気持ちになった。けれど、そんなことを考えている間にも、手は彼の髪を撫で続けているのよ。




「義母さん、いつもありがとうございます。でも、これ…彩香には絶対言わないでくださいね。」


彼がふっと目を開けて、私を見上げながら言ったの。その瞳があまりにも純粋で、私はただ「もちろんよ」と答えるしかなかった。


「私たちだけの秘密ね。」


そう囁いた時、自分でも信じられないほど、胸が高鳴っていた。この関係がどこへ向かうのかなんて分からない。でも、私はこの瞬間が愛おしかった。そして、この秘密を誰にも明かせないことが、少しだけ苦しかったの。


「ねえ、こんなこと、あなたならどう思う?間違ってるかもしれないけど、私にとっては…大切な時間なの。」




「ねえ、こういうのって、やっぱりダメなのかな?」


リビングのソファに腰を下ろしながら、心の中で何度も自分に問いかけているの。義理の息子に膝枕なんて…普通じゃないのはわかってる。でも、あの瞬間の彼の安心した顔を思い出すと、どうしても間違いだったとは思えない。




先週のことだったわ。翔太が突然、夜に電話をかけてきたの。


「義母さん、今ちょっと話せますか?」


時計を見ると、もう10時を回っていて、彩香は多分寝ている時間。いつもは早寝早起きな娘だから。私も戸惑いながら「いいわよ」と答えた。


「実は…彩香と少し喧嘩してしまって。」


彼の声はどこかしら寂しそうで、不安そうだった。話を聞くと、仕事で疲れている中、些細なことで言い争いになったらしい。彩香が「翔太君ってもっとしっかりしてほしい」と言ったことで、彼が傷ついたみたい。


「そんなの、よくあることよ。夫婦って、喧嘩しながら理解し合っていくものなの。」


そう慰めながらも、内心では少しだけ嬉しい気持ちが湧いてしまったの。だって、彼が頼るのは私だけなんだもの。


「…義母さん、少しだけ会えませんか?」


夜道を走る車の音が電話越しに聞こえた時、思わず息を呑んだわ。まさか、彼がうちに来るなんて。




彼が家に着いたのは、その電話の30分後だった。夜風に当たって少し冷えたのか、彼の頬は赤らんで見えたわ。


「こんな時間に来ちゃって、ごめんなさい。」


「いいのよ。さ、入って。温かいお茶でも淹れるから。」


台所で急須に湯を注ぎながら、胸の鼓動が早くなっているのを感じた。これっておかしいわよね。義理の息子が家に来ただけなのに。けれど、彼の存在が家の空気を少しだけ変えているような気がして。


リビングに戻ると、彼は静かにソファに座っていた。テーブルの上の湯飲みから立ち上る湯気をじっと見つめながら、「彩香には、やっぱり弱いところを見せたくないんです」とぽつりと言ったの。


「翔太君、誰だって弱いところはあるわよ。それを見せ合えるのが夫婦じゃない?」


「義母さんは、どうだったんですか?」


その言葉に、一瞬言葉を詰まらせた。私はどうだったんだろう…?夫がいた頃、こんなふうに誰かに弱さをさらけ出せたことがあったかしら。




「翔太君、今日はうちで少し休んでいったら?」


「え…でも、迷惑じゃないですか?」


「大丈夫よ、こんな夜遅いんだから無理して帰らなくていいわ。」


その時、再び彼が私の膝に頭を乗せたの。まるでそれが自然なことのように。そして、彼は少し恥ずかしそうに笑いながらこう言った。


「なんだか、義母さんの膝って、本当に落ち着きますね。」


「…そう?なら、好きなだけ甘えてもいいのよ。」


そう言った瞬間、胸の中に込み上げるものがあった。それは母親としての感情なのか、それとももっと違うものなのか、自分でも分からない。ただ、彼が眠りに落ちるまで、私は黙って彼の髪を撫でていた。




「ねえ、このままでいいのかしら?彩香には絶対に言えないけれど…この気持ちは、誰に話したらいいの?」


月明かりがカーテン越しに部屋を照らす中で、私は静かに自分に問いかけていた。



その問いは、まるで夜の静寂に吸い込まれるように消えていったわ。リビングの時計が静かに時を刻む音だけが耳に残っていて、私は一人でその音に耳を傾けていたの。


「あぁん、どうしてこんなことになったんだろう…?」


翔太君が帰った後の部屋は、どこかぽっかりと空気が抜けたみたいに感じたわ。膝の上に残っていた彼の温もりが、いつまでも私の中に残っている気がして、無意識に自分の膝をさすってしまう。




翌朝、彩香が明るい笑顔で「おはよう!」と言って台所に入ってきたとき、私は反射的に視線をそらしてしまった。彼女が気づくはずもないのに、どこかやましい気持ちが胸を締めつけるの。


「お母さん、昨日早く寝たの?翔太君、帰り遅かったみたいだけど。」


彩香の何気ない一言に、胸の奥がぎゅっと痛む。


「ええ、早く寝たわよ。疲れてたからね。」


言いながら、私は忙しく手を動かして朝食を準備した。目を合わせたら、何かを見透かされそうな気がしてね。


「最近、翔太君、ちょっと疲れてるみたいなのよね。でも、あの人、私には弱音なんて吐かないの。」


「男の人ってそういうものよ。家族だからって、全部を見せるわけじゃないのよ。」


言いながら、自分でもその言葉がどれだけ真実なのか考えてしまった。翔太君が彩香には見せない顔を、私にだけ見せているのだとしたら、それはどういう意味なんだろう。




夕方、庭の片づけをしていると、また彼からメッセージが届いたわ。


「義母さん、今日も少しお話しできませんか?」


その短い一文に、私はまた心がざわめくのを感じた。答えたらいけない、と思う一方で、「断る理由もないじゃない」と自分に言い聞かせる自分もいる。


「もちろんよ。何時に来る?」


送信ボタンを押した後、私は少しだけ震えている手を見つめていた。




彼が訪ねてきたのは夜の8時過ぎ。彩香は友人と出かけていたから、家には私一人だった。


「義母さん、本当にありがとうございます。彩香に言えないこと、義母さんになら話せる気がするんです。」


彼がそう言って座った瞬間、私は何も言えなくなった。彼の言葉には重みがあって、それが私を引き寄せてしまうような力を持っているの。


「…翔太君、少し休んだら?」


気づけば、またあの夜と同じように、彼の頭が私の膝に乗っていた。部屋の明かりを落として、薄暗い中で、彼の寝息が静かに響いている。


「あぁぁん、こんなこと、続けちゃダメよね…」


でもその温もりが、私にとってどれほど心地よいものか、もう否定できなかった。


金曜日の夜はカレーにしてね 義理母さん



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