こんにちは…。
これからお話しすることは、誰にも言えない、
私の心の奥底に沈めていた秘密です。
夫にも、友達にも…そして自分自身にも、
できればなかったことにしたい記憶――。
私の夫は、誠実で優しい人です。
結婚して15年。子どもはいませんが、それなりに穏やかな日々を過ごしていました。
ただ、仕事の忙しさからか…夫との会話も、触れ合いも、年々減っていったのです。
そんなある日、夫の親友・高木さんが家に立ち寄りました。
学生時代からの付き合いで、明るく、冗談の上手な人。
久しぶりの再会に、私もつい笑顔がこぼれました。
「奥さん、変わらないね。むしろ…綺麗になった。」
その言葉に、胸が少し熱くなるのを感じました。
夫はそんなこと、もう何年も言ってくれなかったから…。
その日から、夫が不在の時に限って、
高木さんはふらりと訪ねてくるようになりました。
「近くまで来たから…」と言いながら、
玄関先で花束やスイーツを手渡してくれる。
その優しさが、心にじわじわと入り込んでいきました。
あの日も、夫は出張で家を空けていました。
外は春の雨。薄暗い昼下がり。
高木さんは濡れた傘をたたみ、
「コーヒー淹れてもらえる?」と笑いました。
カップを置いた時、ふいに手が触れました。
「冷たいね…」
そう言って、指先を包み込まれる。
それだけで、鼓動が速くなるのがわかりました。
「…寂しいだろ?」
低い声が、胸の奥まで響きました。
否定しなきゃいけないのに、できませんでした。
夫と過ごす夜の静けさが、頭をよぎったから…。
気づけば、ソファに腰掛けた私の隣に高木さんが座っていました。
雨音が窓を叩く中、距離が近づいていく。
視線が絡まり、息が触れ合うほどに――。
「ダメ…これは…」
そう言いながらも、私の体は拒めませんでした。
指先が髪をすくい、頬をなぞる感触。
耳元で囁かれる名前。
そのすべてが、乾ききった心を潤していくのです。
どれほどの時間が経ったのか…
我に返った時、私は彼の腕の中で震えていました。
罪悪感と、まだ消えない余韻に包まれながら。
夕方、夫から「今夜帰れるよ」と電話がありました。
声が震えないように必死で笑いながら、
テーブルを片付け、部屋の空気を整えました。
夜。
夫は何も知らず、私の作った夕食を美味しそうに食べていました。
その笑顔を見つめながら、
昼間の出来事を思い出し、心の奥がざわつきました。
あれから…
高木さんとは「二度と会わない」と約束しました。
けれど、雨の降る午後になると、
私はあの日の空気を思い出してしまいます。
本当に、私は愚かな女です…。
※この物語はフィクションです。
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