山深い村に住む未亡人の私は、この場所で静かな日々を送っていました。夫を失った悲しみはまだ心の奥底にありましたが、それでも季節ごとの美しい景色が私の癒しでした。そんな私が彼と出会ったのは、夏が終わりかけた頃のことでした。
その日、近くの神社の参道を散歩していたときでした。木漏れ日が差し込む中、見知らぬ男性が佇んでいるのが見えました。彼は驚くほど背が高く、その顔には異様に長くて太いそそり立つ鼻がありました。まぁ、いやだぁ「天狗のようだわ」いやらしぃと、思わず心の中でつぶやいてしまいました。
「こんにちは。」私が声をかけると、彼は振り向き、少し微笑みました。その瞬間、心臓が一瞬止まるような感覚に襲われました。彼の目は深い森のようで、見つめられると自分がすべて見透かされるような気がしたのです。
「こんにちは。散歩ですか？」低く響く声で彼が尋ねてきました。私は頷きながら、「ええ、いつもこの道を歩くのが好きなんです。」と答えました。
それから、彼との会話が始まりました。彼は都会からこの村に移り住んだばかりで、この神社が気に入っていると言いました。その話しぶりには、どこか神秘的な雰囲気がありました。
ある日、彼が私を訪ねてきました。「少し話しませんか？」と誘われ、断る理由もなかった私は彼を家に招き入れました。二人で庭先に座りながらお茶を飲むと、彼はぽつりぽつりと自身の人生について語り始めました。彼もまた、かつて大切な人を失った経験があると。
「あなたは、まるで天狗みたいですね。」思わず口にしてしまった言葉に、自分でも驚きました。彼は一瞬目を丸くし、それから大きな声で笑いました。
「それは初めて言われました。でも、悪い気はしません。」
その笑顔があまりにも温かく、私の心の中にしまっていた何かがふっとほどけるのを感じました。
しかし、その日から、私は自分の心の中で揺れ動く感情に戸惑うようになりました。「夫を失ったばかりの私が、こんなふうに誰かを想っていいの？」という罪悪感と、「でも、この人といると、久しぶりに自分が生きていると感じられる」という欲望が入り混じっていました。
夜になると、彼との会話が頭の中をぐるぐると巡ります。彼の長くてたくましいそそり立つ鼻が月明かりに照らされたときの姿、低く響く声、そして、あの深い目。
「ねえ、私は間違っているの？」布団の中で独り言のようにつぶやいても、答えは返ってきません。それでも、心の奥底では、彼ともっと一緒にいたいという気持ちが強くなっているのが分かっていました。
翌日、私は思い切って彼を再び神社に誘いました。「あなたといると、心が軽くなるんです。」そう伝えると、彼は少し驚いた表情を見せましたが、すぐに優しい笑顔を浮かべました。
「あなたがそう思ってくれるなら、僕も嬉しいです。」その言葉を聞いた瞬間、なにかが「ジワッ」とあふれ出てきました。彼はそっと私の手を取り、何も言わずに握りしめてくれました。
それからの私は、彼と共に過ごす時間が少しずつ増えていきました。彼の鼻は相変わらず長くて太く、そそり立っていて、まるで天狗そのもの。でも、そんな彼が私にとって新たな生きる希望となったのです。
「天狗のような鼻の男に惹かれるなんて、自分でも信じられないわ。」そう笑いながら彼に言うと、彼はまたあの温かい笑顔で、「それなら、僕はあなたの天狗になりますよ。」と答えてくれました。
私たちの物語はまだ始まったばかりですが、この出会いが私に新たな風を運んでくれたことだけは間違いありません。
ある夜、私は奇妙な夢を見ました。
夢の中、私は深い霧の中を歩いていました。辺りは薄暗く、何も見えないはずなのに、なぜか彼の姿だけがはっきりと見えるのです。彼は神社の石段に立っていて、長くて太い鼻が霧の中でそそり立っていました。
「あなたはどうしてここにいるの？」私は夢の中でそう尋ねました。
彼は微笑みながら、「あなたが呼んだんでしょう？」と答えました。その声は現実のものよりもさらに低く響き、まるで大地そのものが語りかけてくるようでした。
「呼んだなんて、私はそんなつもりじゃ……。」
すると彼はゆっくりと私に近づき、まるで天狗が使う羽団扇のような手を伸ばしてきました。「あなたの心が、私をここに連れてきたんです。」
その言葉に、私は戸惑いと共に深い喜びを感じました。彼が私の頬に手を触れた瞬間、全身が熱くなるような感覚に包まれ、霧の中で彼と向き合う時間が永遠に続くように思えました。
目が覚めると、胸が高鳴っているのを感じました。夢だったと分かっているのに、彼の手の感触がまだ残っているような気がしたのです。
「あれは夢だったの？それとも……。」
その日、彼に会ったとき、私は思い切って言いました。「昨夜、あなたが夢に出てきたの。」
彼は少し驚いた顔をしましたが、それから穏やかに微笑んで、「それは、僕も同じ夢を見ていたのかもしれませんね。」と答えました。
その言葉に、私は胸の奥がぎゅっと締め付けられるような気がしました。現実と夢が混じり合うような感覚の中で、私はますます彼に惹かれていく自分を止められなくなっていました。
「私の心の中に、もうあなたがいるのね。」
そうつぶやいた私の言葉に、彼は静かに頷きました。そしてその夜、私は再び彼の夢を見るのを待ち望んでいる自分に気付きました。
山深い村での静かな暮らしが、あの男との出会いですべて変わってしまいました。彼は神社の石段に立っていて、背が高く、その顔にはあの象徴的な長くて太いそそり立つ鼻がありました。その鼻を見るたびに、私は心の奥底で何かがざわつくのを感じていました。
「あら、またお会いしましたね。」
その日も神社で彼と顔を合わせました。私は笑顔を作りながら話しかけましたが、胸の中では心臓が早鐘のように鳴っていました。彼はゆっくりと振り向き、いつもの低い声で答えました。
「偶然というのは不思議ですね。」
彼の言葉が私の耳に響くたび、理性が少しずつ崩れていくのを感じました。未亡人である私が、こんなふうに誰かを意識することが許されるのだろうか。けれど、彼と過ごす時間は私にとって特別で、心の傷をそっと癒してくれるものでした。
ある日の夕暮れ、彼と神社の裏山を一緒に散歩することになりました。木々の間を抜ける風が心地よく、夕陽が赤く空を染めていました。彼の長くてたくましいそそり立つ鼻がその光を浴びて、まるで神秘的な存在のように見えました。
「こうして一緒にいると、不思議と安心します。」
私がそう言うと、彼は静かに笑って答えました。「それは僕も同じです。」
その瞬間、私は自分の中の欲望が抑えきれなくなるのを感じました。彼に近づきたい、この感情を伝えたいという思いが膨らんでいきます。しかし同時に、夫を失った悲しみや罪悪感が私を引き止めました。
その夜、私は彼を家に招きました。庭先でお茶を飲みながら、彼のそそり立つ鼻に視線を奪われている自分に気付きます。彼の目が私をじっと見つめ、まるで心の奥底まで覗き込まれているようでした。
「あなたとこうして話していると、自分がまた生きていると感じられます。」
思い切ってそう言うと、彼はそっと私の手を握りました。その手の温もりに、私は涙をこぼしてしまいました。
「泣かないでください。あなたが生きていること、それが何よりも大切です。」
彼の言葉が胸に染み渡り、私は彼に身を委ねることを決意しました。その夜、私たちは長い時間を共に過ごしました。彼のたくましい脈打つ太い鼻に触れるたび、私の心は高鳴り、彼の存在が私のすべてを満たしていくのを感じました。
翌朝、彼の隣で目覚めた私は、胸に残る喜びと少しの罪悪感を抱えながらも、自分が新しい人生の一歩を踏み出したことを確信しました。
「あなたと出会えたことが、私にとっての奇跡です。」
そう告げると、彼は優しく微笑んで言いました。「僕も同じです。これからもあなたと共に歩んでいきたい。」
この恋がどんな結末を迎えるのか、まだ分かりません。それでも、私は彼と共にいることが、自分にとって一番大切なことだと感じています。そして、その太い鼻は、私にとって愛の象徴となりました。
これが、私と彼の情熱的な恋愛の始まりなのです。
けれど、その奇跡は永遠には続きませんでした。
彼と過ごす日々が続く中で、私は彼の中に少しずつ変化を感じ始めました。彼の視線がどこか遠くを見つめるようになり、私に向けられる笑顔が少しだけ影を帯びるようになったのです。
「どうしたの？何か悩みがあるのなら、話してほしい。」
ある夜、私は思い切って彼に尋ねました。彼はしばらく黙っていましたが、やがて静かに口を開きました。
「僕はこの村を離れることに決めました。」
その言葉は、私の心を冷たく締め付けました。「どうして？」
彼は苦しげな表情で答えました。「あなたとの時間は、本当に特別でした。でも、僕にはまだやるべきことがあるんです。」
私はその言葉に反論することができませんでした。彼の気持ちは真剣で、私を思いやる優しさが込められているのが分かったからです。
「あなたがいなくなったら、私はどうしたらいいの？」
涙が止まりませんでした。彼はそっと私を抱きしめ、静かに囁きました。「あなたは強い人です。僕がいなくても、きっと前を向いて生きていける。」
その夜、私たちは最後の時間を共に過ごしました。ドクンドクン 彼のそそり立つ脈打つ鼻に触れるたび、私はこの瞬間を永遠に覚えていようと心に誓いました。
翌朝、彼は私に別れを告げ、村を去っていきました。私はその背中を見送りながら、心の中で静かに祈りました。「どうか彼が幸せでありますように。」
彼がいなくなった村の景色は、どこか色褪せて見えました。それでも、彼と過ごした日々が私に新たな希望と生きる力をくれたことを感謝しています。
「彼との恋は終わったけれど、私の人生はまだ続いていく。」
そう思いながら、私は再び日々の暮らしに戻りました。彼の記憶は、これからも私の中で輝き続けることでしょう。
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