再会の季節
私はいつものように、駅前のカフェ「アルバトロス」に向かって歩いていた。仕事を終えた後のこのひとときは、私にとって大切なリラックスタイムだ。店内に入ると、カウンター越しに店主の佐藤さんがにこやかに手を振ってくれた。
「美智子さん、いらっしゃい。いつものカプチーノでいいですか?」
「うん、お願いね。」
窓際の席に座り、外の風景を眺める。春の陽射しがやわらかく、街路樹の新緑が目に心地よい。このカフェは私の秘密の隠れ家のような存在だ。ここに来ると、日常の喧騒を忘れてほっとできる。
「お待たせしました。」佐藤さんがカプチーノをテーブルに置いてくれた。
「ありがとう、佐藤さん。」
カプチーノの香りを楽しみながら、ふと入口に目を向けると、懐かしい顔が目に飛び込んできた。彼だった。20年前、私の初恋の相手だった和也がそこに立っていた。
「美智子?」彼も私に気づき、驚いた表情を見せた。
「和也…久しぶりね。」
和也は微笑んで私の席に近づき、「ここ、座ってもいい?」と尋ねた。
「もちろん。」
彼が向かいに座ると、私たちはしばらく無言でお互いを見つめ合った。20年の歳月が彼の顔に刻まれていたが、その笑顔は変わっていなかった。
「最近、どうしてる?」彼が口を開いた。
「まあ、普通に。子どもたちも大きくなって、少し時間ができたから、こうしてカフェでゆっくりするのが日課になってるの。」
「そうか、君らしいね。」
「和也はどう?元気にしてた?」
「うん。仕事が忙しくて、なかなかゆっくりする時間がなかったけど、最近ようやく落ち着いてきたんだ。だから、こうして久しぶりにこの街に来てみたんだ。」
彼が話す声を聞きながら、20年前の思い出が次々と蘇ってきた。高校時代、私たちはお互いに夢を語り合い、将来を誓い合った。しかし、大学進学とともに自然に疎遠になり、それぞれの道を歩むことになった。
「ねえ、今日は久しぶりに散歩でもしない?この辺りも随分変わったでしょう?」私は思い切って提案してみた。
「いいね。じゃあ、行こうか。」
私たちはカフェを出て、懐かしい道を歩き始めた。並んで歩くと、過去の記憶が鮮やかに蘇り、まるでタイムスリップしたような気持ちになった。
「ここ、昔よく来た公園だよね。」和也が立ち止まり、目の前の小さな公園を指さした。
「うん、覚えてる。あのベンチでよくおしゃべりしたよね。」
「そうだね。君と話してると、時間があっという間に過ぎたっけ。」
公園のベンチに座り、私たちは昔のように語り合った。和也は仕事のこと、家族のこと、そして自分の夢について話してくれた。私も、自分のこれまでの人生や、これからのことについて話した。
「美智子、君とこうして再会できたのは運命かもしれないね。」和也が優しく微笑んだ。
「私もそう思う。久しぶりに心が温かくなったわ。」
その瞬間、私の中で何かが動き始めた。20年という時間が埋められていくような感覚。再び始まるかもしれない、新しい物語の予感。和也の視線が私の唇に止まり、次に目が合ったとき、彼の目には昔と同じ熱が宿っていた。
「美智子、君は変わらないね。あの頃のまま、綺麗だ。」
その言葉に胸が高鳴るのを感じた。彼の視線が肌に触れるたびに、全身が熱くなる。心の中に押し込めていた感情が、再び溢れ出そうとしていた。
「和也…本当に?私も、和也のこと、ずっと忘れられなかった。」
言葉が途切れると、彼は私の手をそっと握りしめた。その温かさが、心の奥深くに染み渡っていく。
「美智子、もう一度、君と一緒にいたい。」
彼の囁きに、胸の中で何かが弾けた。過去の痛みや後悔が消え去り、ただ彼の存在だけが鮮明に感じられた。
「和也…私も、もう一度、あなたと…」
その言葉が私たちの間に漂うと、和也はそっと私を引き寄せ、優しく唇を重ねた。その瞬間、過去と現在が交錯し、私たちの心が一つになったような気がした。
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