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蓼食う虫、恋の味を知る


「その人のどこがいいの?」

友人にそう聞かれるたび、真奈美は答えに詰まった。年下で、無口で、お世辞ひとつ言えない不器用な男。世間的に見れば、地味で華のない相手だった。

「蓼食う虫も好き好きって言うでしょ」

蓼食う虫も好き好きって言うでしょ
蓼食う虫も好き好きって言うでしょ


友人は笑いながらそう言った。人の好みは様々で、他人には理解できないものもある――そんな意味の諺だ。真奈美自身、若い頃なら気にしていたかもしれない。周りにどう見られるか、恋人が「見栄えのする人」かどうか。

でも今は違った。

隆之と出会ったのは、行きつけの定食屋だった。カウンターで隣り合わせただけの関係が、気づけば週に一度の楽しみになっていた。彼は口数が少なく、気の利いた言葉も言えない。デートらしいデートもせず、いつも同じ店で同じように味噌汁をすすっている。

「退屈じゃない? 私といて」

ある夜、真奈美がそう尋ねると、隆之は箸を止めてしばらく考えた。

「退屈より、安心の方が大事な歳になりました」

その一言に、真奈美は胸を突かれた。若い頃なら物足りないと感じたであろう静けさが、今の自分には何よりも心地よかった。刺激よりも、寄り添う温もり。派手さよりも、変わらない眼差し。

「私、あなたのそういうところが好きよ」

「蓼みたいなものですよ、僕は。苦くて、地味で」

真奈美は思わず笑った。



「知ってるなら聞くけど、蓼を好んで食べる虫は、ちゃんとその苦さの奥にある美味しさを知ってるのよ」

隆之は驚いたように真奈美を見つめ、それから少し照れたように笑った。

人が何と言おうと構わない。誰かにとっての「地味」は、自分にとっての「特別」になり得る。四十六歳になった今だからこそ、真奈美はその諺の本当の意味を噛みしめていた。

苦みの奥に、確かな甘さがある。それを知る虫だけが、蓼を美味しいと言えるのだ。


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