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娘の友達が私を惑わせる夜



第1幕:再会


――冬の空気が肌に冷たく触れる夜だった。  


美咲はコートの襟を立て、駅前のカフェの扉を押し開けた。仕事帰りに軽く温かいものでも飲んで帰ろうと、何気なく立ち寄った店だった。  


「いらっしゃいませ」  


店内はほどよい暖かさで、ホッとする香りが漂っている。窓際の席に座り、メニューを眺めながら、ふと過去のことを思い出した。娘の沙織が大学生だった頃、友人たちをよく家に連れてきていた。笑い声が響くリビングの光景が、今では懐かしい。  


(もうあの頃から十年以上経つのね……)  


そう思いながら視線を上げた瞬間――  


「……美咲さん?」  


不意に名前を呼ばれた。  


驚いて顔を向けると、そこに立っていたのは、見覚えのある顔だった。  


「涼介くん……?」  


紺色のスーツに身を包み、落ち着いた佇まいの男性。娘の大学時代の親友、涼介だった。  


「やっぱり美咲さんですよね。お久しぶりです」  


彼は微笑みながら、ゆっくりと近づいてきた。  


(こんな偶然ってあるの……?)  


あの頃はまだ幼さが残る青年だったはずの彼が、今はすっかり大人の男になっていた。  


「すごい偶然ですね。お一人ですか?」  


「ええ、ちょっと仕事帰りにね……」  


「もしよければ、ご一緒しても?」  


――その声は、かつての礼儀正しく控えめな少年のものとは違った。低く落ち着きがあり、どこか大人の余裕を感じさせる声だった。  


美咲は戸惑いながらも、なぜか断る理由が見つからなかった。  


「……ええ、もちろん」  


彼は向かいの席に腰を下ろし、コートを脱ぐ。  


「こうして二人で話すの、初めてですね」  


涼介の穏やかな微笑みを前に、美咲の胸の奥がざわついた。  


(どうしよう……私、こんな風にときめくなんて……)  


テーブルの上に並ぶ二つのカップ。その湯気が、静かに二人の距離を縮めていくようだった――。  



第2幕:抑えきれないときめき


カップの縁に口をつけながら、美咲は目の前の涼介をそっと盗み見る。  


かつて娘と並んでいた少年の面影は薄れ、目の前にいるのは洗練された大人の男だった。整えられた髪、よく似合う紺のスーツ、指先まで無駄のない動作――何より、落ち着いた低い声が心に響く。  


「美咲さん、少しも変わってないですね」  


涼介が微笑む。その視線があまりにも真っ直ぐで、美咲は思わず目をそらした。  


「そんなことないわ。もうすっかり年相応の……」  


「いや、本当に。綺麗なままだし、むしろ昔より……」  


言いかけて、涼介は言葉を飲み込む。だが、その続きを美咲は察してしまった。  


(まさか……私に向けられた言葉じゃないわよね?)  


けれど、心の奥で小さく弾けるものがあった。  


(ダメよ、美咲。いったい何を期待してるの?)  


娘の友人――それも、十以上も年下の男性。いくら彼が立派になったからといって、こんな気持ちを抱くのはおかしい。  


「……涼介くん、今はどんなお仕事を?」  


気持ちを紛らわすように話題を変える。  


「今は建築関係の仕事をしています。設計事務所で、いろんなプロジェクトを担当してるんです」  


「まあ、素敵ね。確か、昔からそういうのが好きだったわよね」  


「覚えてくれてるんですね。嬉しいな」  


涼介は懐かしそうに笑う。  


「でも……あの頃はまだ子どもだったなって思いますよ」  


「そんなこと……」  


「だって、当時は美咲さんに緊張して、まともに目も合わせられなかったですから」  


「え?」  


思わぬ告白に、美咲は息をのんだ。  


「美咲さん、すごく綺麗で、大人の女性で……それに優しくて。沙織の家に遊びに行くたびに、ドキドキしてました」  


冗談めかして言ったはずなのに、涼介の目は真剣だった。  


「……そんなこと、初めて聞いたわ」  


「言えるわけないですよ、当時は。でも、今なら言えます」  


美咲の心臓が波打つ。  


(どうしよう……こんな風に見つめられると……)  


ダメだ、意識しちゃいけない。彼は娘の友人。これはただの懐かしい再会――。  


だけど。  


「美咲さん、今日はもう少しお話しませんか?」  


涼介の低い声が、耳元に柔らかく響く。  


もう、ときめきを抑えられそうになかった――。  



第3幕:禁断の一線


――どうして、こんなことになってしまったのかしら。  


美咲は、暗がりのホテルの一室で、静かに息を吐いた。  


ついさっきまで、駅前のカフェで他愛ない会話をしていたはずなのに。  


「美咲さん、今日はもう少しお話しませんか?」  


涼介にそう言われたとき、断るべきだった。  


けれど、心のどこかで期待してしまった自分がいた。  


(少しだけなら……)  


そんな気持ちが、いつの間にか足を踏み外させていた。  


***  


タクシーの後部座席。  


車内の静けさが、妙に心をざわつかせる。  


窓の外の街灯の明かりが、涼介の横顔を照らしては消える。その横顔を盗み見しながら、美咲は自分の鼓動が速くなっていくのを感じた。  


(どうしよう……本当にこのまま……?)  


「美咲さん、緊張してます?」  


突然、涼介が優しく微笑む。  


「えっ……そんなこと……」  


「大丈夫ですよ。無理はさせませんから」  


涼介の言葉は優しかった。  


それが、余計に美咲の心を揺らす。  


(帰るなら、今しかない……)  


けれど、口を開いても言葉が出てこなかった。  


(私は、何を期待してるの……?)  


美咲はゆっくりと目を閉じた。  


***  


部屋に入ると、窓の外には夜景が広がっていた。  


「綺麗ですね」  


涼介がカーテンを開けながらつぶやく。  


「ええ……」  


美咲は自分の手をぎゅっと握りしめる。  


今ならまだ、帰ることもできる。  


けれど――  


「美咲さん」  


涼介がゆっくりとこちらを振り向く。  


「……何?」  


「本当に、帰りますか?」  


逃げ道を用意してくれている優しさ。  


だけど、美咲はもう、その言葉に甘えられなかった。  


「……私、もうずっと、こんな気持ち忘れてたわ」  


「どんな気持ちですか?」  


「誰かに見つめられて、鼓動が速くなるような……自分が女であることを思い出すような……」  


声が震える。  


涼介はそっと、美咲の手を取った。  


「俺は……ずっと美咲さんが綺麗だと思ってました」  


静かに触れた指先の熱に、もう抗えなかった。  


美咲は目を閉じ、そっと涼介の胸に顔をうずめた。  


(この夜だけは――許されてもいい?)  


禁断の一線を越えることを、彼女はもう止められなかった。  



第4幕:葛藤と決断


目が覚めると、隣には涼介がいた。  


規則正しい寝息を立てる彼の寝顔を見ながら、美咲はそっと布団を引き寄せる。  


(私……本当に、一線を越えてしまったのね)  


心臓が静かに高鳴る。  


昨夜の熱がまだ残る身体に、ふと現実が押し寄せた。  


(これからどうするの……?)  


美咲は、ゆっくりと視線を巡らせる。  


ホテルの部屋の窓の外は、すでに白み始めていた。  


夜の闇に紛れていた気持ちが、朝の光に晒されるようで、居心地が悪い。  


――昨夜、涼介は優しかった。  


何度も「大丈夫ですか?」と気遣いながら、美咲の不安を一つずつほどいてくれた。  


求められることの喜び。  


触れられることの甘さ。  


そのすべてが、美咲の心に染み渡った。  


けれど――  


(私は、何をしてしまったの?)  


胸の奥から、じわりと罪悪感が湧き上がる。  


娘の親友。  


ひとまわり以上も年下の男性。  


そして、亡き夫への後ろめたさ。  


(こんなこと……許されるはずないわ)  


美咲はそっとベッドから抜け出した。  


涼介を起こさないよう、静かに服を拾い上げる。  


このまま、何事もなかったように帰ればいい。  


きっとそれが、一番いいはず――  


「……逃げるんですか?」  


突然、背後から涼介の声が聞こえた。  


びくりと肩が跳ねる。  


「涼介……」  


振り向くと、彼は眠そうな目をしながら、美咲をじっと見つめていた。  


「何も言わずに帰るつもりでした?」  


「……ごめんなさい。でも、これは……間違いだったわ」  


「どうして?」  


「私は……あなたのお母さんと同じくらいの年齢なのよ? それに……」  


「それに?」  


「娘の親友と、こんな関係になってしまったなんて……あの子に顔向けできないわ」  


涼介は、ふっと小さく笑った。  


「美咲さん、それって、本当に"間違い"ですか?」  


「……」  


「俺は、美咲さんが好きです。昨日の夜だけじゃなく、ずっと」  


真剣な瞳。  


冗談でも、一時の気まぐれでもない。  


彼の言葉に、美咲の心が揺れる。  


(この気持ちは……間違いじゃない?)  


「美咲さんが俺を拒むのなら、無理には引き止めません。でも……本当はどうしたいですか?」  


「……私、そんなの……」  


「自分の気持ちに嘘をつかないでください」  


(私は……どうしたいの?)  


今ならまだ、引き返せる。  


涼介と出会う前の生活に戻れば、何もなかったことにできる。  


けれど――  


彼の手が、そっと美咲の手を包む。  


その温もりに、美咲の心は決壊した。  


「……私、あなたといると、すごく……苦しいの。でも、もっと一緒にいたいって思ってしまうの」  


「それが答えですよ」  


涼介の腕が、美咲をそっと抱き寄せた。  


罪悪感も、後悔も、すべて抱えたままでいい。  


それでも、この気持ちに嘘はつけない。  


美咲は、そっと涼介の背に腕を回した。  


「……もう少しだけ、そばにいてくれる?」  


「もちろんです」  


朝の光が、二人を優しく包み込んだ。  



第5幕:新たな関係


季節は巡り、春が訪れようとしていた。  


美咲は、自宅の庭先に咲いた梅の花を見つめながら、そっと風を感じる。  


あの朝、涼介と共に過ごした時間から数ヶ月が経った。  


「……美咲さん」  


背後から聞こえる優しい声。  


振り向くと、そこには涼介が立っていた。  


相変わらず落ち着いた佇まい。だが、その瞳の奥には以前よりも確かなものが宿っている。  


「来てくれたのね」  


「ええ、美咲さんに会いたくて」  


美咲は微笑みながら、テーブルに湯気の立つ湯呑みを置いた。  


「お茶、淹れたわ。冷めないうちにどうぞ」  


涼介は静かに席に着き、一口、喉を潤す。  


「……優しい味ですね」  


「ふふ、いつもと同じよ」  


穏やかな時間。  


けれど、あの朝とは違う。  


美咲はまだ迷っていた。  


涼介との関係を、このまま続けていいのか。  


「美咲さん」  


「なに?」  


「もう、俺のことを避けるのはやめてもらえませんか?」  


美咲は息をのんだ。  


(避けていたつもりはない……でも、確かに、心のどこかで距離を取ろうとしていたのかもしれない)  


「私は……」  


「正直、俺も悩みました。だけど、考えて考えて……やっぱり、美咲さんが好きです」  


「涼介……」  


「俺は、美咲さんと一緒にいたい。年齢なんて関係ありません。そんなことより、俺はあなたのそばで、あなたを幸せにしたい」  


まっすぐな瞳。  


彼の想いに、美咲の胸が締め付けられる。  


「でも……世間はそんなふうに見てくれないわ」  


「世間がどう思うかじゃなくて、美咲さんがどうしたいか、ですよ」  


どうしたいか――  


問いかけられ、美咲は改めて自分の心を覗き込む。  


年齢のこと、娘のこと、亡き夫への思い……  


それでも。  


「……私も、涼介と一緒にいたいわ」  


小さく呟いたその言葉に、涼介の表情が綻んだ。  


「……本当ですか?」  


「ええ。もう、自分に嘘をつくのはやめる」  


美咲の手が、そっと涼介の手に触れる。  


そのぬくもりを確かめるように、指を絡めた。  


「こんな私でも、いい?」  


「もちろんです」  


涼介が、美咲の手をぎゅっと握る。  


そして、静かに、美咲の額に唇を寄せた。  


甘く、穏やかで、優しいキス。  


風がそよぎ、梅の花びらが舞う。  


新しい季節の訪れとともに、美咲の心にも、温かな春がやってきた。  




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