夜が深くなるほど、
あなたの声が、輪郭を取り戻してくるの。
忘れたはずの癖、触れられた場所、囁きの温度――
なぜか、こんなにも鮮明に。
私はいま、鍵をかけた一人の部屋にいる。
誰にも、見られたくない。
この姿だけは……絶対に。
化粧も落とさず、
あなたに触れられた夜の下着を身につけたまま、
ベッドに腰を沈めて、ただ黙っているの。
ねぇ、知ってる?
心って、腐るのね。
あなたを想い続けて腐ったこの感情、
もう誰にも、見せられないほど黒いの。
それでも思い出すの。
あなたの体の重さ。
私を包む腕の、獣みたいな荒さと、
最後のキスの、あのやさしさ。
あの時、私、笑ってた?
泣いてた?
覚えてないのよ。
でも、あなたの背中の広さだけは……今でも、
目を閉じればすぐそこにある。
一人の夜は、まるで毒。
ゆっくりと、でも確実に私の中を蝕んでいく。
だけど、それでいいの。
あなただけが、私を狂わせた。
あなただけが、私を女にした。
……明かりを消して、鍵をかけて、
私はまた、あなたの幻に抱かれる。
誰にも見せられないわ。
こんな女、もう二度と。
あの夜から、私の時間は止まってる。
何年経った? 季節がいくつ巡った?
そんなの、もうどうでもいいのよ。
カレンダーなんて破り捨てたの。
だって私の中では、まだあなたがいるのよ。
玄関の鍵を閉めるたび、
あなたがすぐ後ろに立っている気がして……
思わず、振り返ってしまう。
馬鹿みたいでしょう?
でも、そうやって生きてるの。
生きてる“ふり”をしてるのよ、昼間だけ。
夜になると、本当の私が現れる。
ベッドの端に、足を揃えて座って、
じっと、あなたを待つ。
心の中で何度も呼ぶの。
「来て……早く……来て……」って。
でも来ない。
来ないわよね、もう。
……それでも、
あなたの重さが、まだ私の腰に残ってる。
肩に、唇に、太ももの奥に……
あの夜の跡が、消えない。
ねぇ、どうしてあの時、
「また会おう」なんて言ったの?
その一言が、私をこんなにも縛ってるのに。
会わなくてよかった。
消えてくれればよかった。
私の記憶ごと、焼き捨ててくれればよかったのに――
……ねぇ、
私、壊れたのかもしれないわ。
でもね、それでいいの。
だって、あなただけを愛した証だから。
この部屋は、棺よ。
あなたに出会う前の私を、もうここには置いてない。
今夜も鍵をかけた。
そして、静かに目を閉じる。
またあなたが来るように――
幻でもいい、
せめて、私の夢を壊して。
……明日になんて、なってほしくない。
私、わかってるの。
もうあなたは、ここにはいない。
この部屋にも、私の体にも、心にも――
本当は、もう何も残っていないのよ。
でも、それを認めてしまったら、
私は空っぽになってしまうの。
あなたを思い出すことでしか、自分を保てないの。
ねぇ……
人って、こんなにも簡単に壊れるのね。
お皿みたいに割れる音もしない。
ガラスみたいに鋭くもない。
ただ、静かに、ふっと崩れていくの。
今夜、鏡を見てしまったの。
映ってたのは私じゃなかったわ。
あれは、
あなたを忘れられなかった女の末路。
笑ってたの。
誰もいない部屋で、口元だけがひくひく笑ってて……
なのに目は、まるで死んだ魚みたいだった。
その女が、私だったのよ。
怖かった。
でも……少し、気持ちよかった。
崩れていく自分が、
ようやくあなたに追いつけるような気がしたの。
だって、あなたに置いて行かれてから、
ずっとひとりだったから。
だからね、壊れていく私は――
あなたに近づいてるの。
狂ってる?
そうね、たぶんそうよ。
でもね、それでもあなたが来るなら、
私は喜んで壊れる。
心なんて、とうにヒビが入ってたのよ。
でも今夜、ようやく砕けたわ。
細かく、粉々に――
ほら、音もしないでしょ?
静かに、終わるの。
明日が来ないように、
カーテンも閉めた。
時計の針も止めた。
窓には黒い布を貼った。
全部、あなたのためよ。
この部屋で私は、
あなたに抱かれたまま、
壊れて、消えていく。
誰にも、見られずに――
ねぇ……
これで、私もあなたの中に残れる?
……いいえ、
あなたの中に私なんて、最初からいなかったのよね。
でもいいの。
もう、何も感じないから。
……今、何時かしら。
時計の針は、もう動いてない。
だけど、不思議と焦りはないの。
むしろ――安心してる。
ねぇ、聞こえる?
この静けさ。
誰の声も届かない、
私だけの夜。
あなたの温もりも、声も、
もう、思い出せないの。
あれほど鮮明だったのに……
なぜか、今夜はぼんやりと霞んでいる。
ああ、そうか。
私の中から、あなたが抜け落ちたのね。
苦しみも、愛しさも、
恨みも、未練も、
すべてがゆっくりと剥がれていく。
まるで皮膚の下に貼りついていた
偽りの“生”が、
剥がれていくように。
鏡ももう見ない。
あの女は、もういないから。
笑っていた女も、泣いていた女も、
いまは、ただひとつの“影”になった。
そして、私の心も――
空っぽになったわ。
でもそれは、恐ろしくはなかった。
寂しくも、哀しくもなかった。
それはきっと、
“終わり”の中にある、
唯一の救い。
私、ようやくここまで来たのね。
あなたが去った場所から、
ずっと歩き続けて、
やっとここまで来た。
もう、思い出さなくてもいい。
もう、震えなくてもいい。
今夜、私はここで終わる。
鍵をかけたこの部屋で、
静かに、深く、
あなたを忘れていく。
何もない――
けれどそれこそが、
私の“自由”。
ありがとう。
さようなら。
……永遠に。
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