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9月, 2025の投稿を表示しています

五十歳、まだ女でいたい ― 寸止めの葛藤

五十歳になったいま、私は毎日のように自分の心を持て余しています。 もう落ち着く年齢なのに、なぜこんなにも心も体も疼いてしまうのだろう――。 https://youtu.be/FikJugZ3z5E きっかけは、職場にやってきた契約社員の彼でした。 まだ三十代半ば、息子とそう変わらない年齢。 けれど、彼の視線が私に注がれるたび、心臓はいやに大きな音を立てる。 「お疲れさまです、部長」 そう言って軽く笑いかけられるだけで、女である私が目を覚ましてしまうのです。 ある日、残業でふたりきりになった夜。 コピー機の前で、彼の指先が私の手に触れた。 ほんの一瞬だったのに、電流のような衝撃が全身を駆け抜けました。 「すみません」 彼は照れくさそうに笑った。 けれど、その笑顔の裏に潜む熱を、私は見逃さなかった。 心の中で理性が叫びます。 ――だめよ、あなたは既婚者。彼は部下。 でも、もうひとつの声が囁くのです。 ――まだ、女でいたいんでしょう? 次の夜、また残業でふたりきり。 資料を確認しようと身を寄せた瞬間、彼の吐息が耳元をかすめた。 その温かさに、全身が震える。 気づけば、私の指先は机の縁を必死に掴んでいました。 あと少し、ほんの数センチ顔を近づければ――唇が触れてしまう。 「……部長」 彼の声が低く沈む。 呼吸が交わり、時間が止まる。 けれど、私は寸前で視線を逸らし、椅子を立ち上がりました。 「だめよ……」 そう呟くのが精一杯でした。 理性と欲望のせめぎ合い。 抱きしめられたい。唇を重ねたい。 でも、それを許した瞬間、すべてが壊れてしまう。 だからこそ、ギリギリで踏みとどまる。 その夜、家に帰っても心臓の鼓動は収まらず、布団の中でひとり震え続けました。 夫と眠る同じ部屋で、私は女としての渇望に苛まれる。 「どうして、私はこんなに揺れてしまうの……?」 翌日、彼と目が合う。 何もなかったように仕事をこなすけれど、互いの心には昨夜の寸止めが生々しく残っている。 視線が重なれば、あのときの熱が蘇る。 触れなかった唇が、触れなかった手が、かえって強く疼くのです。 五十歳、まだ女でいたい。 女として求められたい。抱きしめられたい。 けれど理性が、「寸止め」という苦しい檻に閉じ込めてしまう。 私は今日も笑顔を装いながら、その葛藤を胸に秘めています。 ――いつか、この寸止めを超えてしまう日...

皮を剥いて洗う義母

 台所に立つ義母の姿を、俺はいつも横目で見ていた。白い割烹着に包まれた背中。年齢を重ねてなお、しなやかな所作は失われていない。義母は今、里芋の皮を剥いている。小刀を器用に動かしながら、滑りやすい芋の表面を丁寧に削ぎ落としていく。その動きを見ているだけで、俺の心はざわつく。 https://youtu.be/Byn9rfMgnVE  「ほら、これ、ぬめりがあるから気をつけないとね」  義母は笑みを浮かべて、剥いたばかりの里芋を水にさらした。洗い流される白い肌が、まるで人の奥底をあらわにするようで、俺は言葉を失った。  俺は中年になった。家庭も仕事もそれなりに安定し、外から見れば何不自由なく生きている男に見えるだろう。だが、心の奥底には、言葉にできない空洞があった。虚しさ、渇き、そしてときに禁断の欲望。その渦中に現れるのが、義母の何気ない仕草だった。  「あなたも、少し手伝ってくれる?」  促され、俺は流し台に近づいた。冷たい水に沈む里芋に触れた瞬間、ぬめりが指に絡みつき、何とも言えぬ感触が胸の奥に波紋を広げる。義母の手が重なることはない。ただ、隣に立ち、同じ作業をしているというだけで、背筋に熱が走るのだ。  人はなぜ、家族という枠組みの中で欲望を抑え込まねばならないのか。義母は血のつながりのない存在だ。それでも「義」という二文字が、俺の心を縛りつける。皮を剥くように理性を削ぎ落とせば、きっと俺の中の生々しい欲求が露わになってしまうだろう。だからこそ、洗い流さねばならない。罪悪感という名の水に、何度も何度もさらして。  「もうすぐ煮えるわ。いい香りがしてきたでしょう?」  義母は鍋を覗き込み、静かに微笑んだ。湯気の向こうに浮かぶその横顔は、若い頃の面影をまだ残していた。俺はただ頷くだけで、言葉を発することができなかった。胸に込み上げる感情は、感謝なのか、憧れなのか、それとも抑えきれぬ衝動なのか、自分でもわからない。  里芋の皮を剥き、洗い流すという行為。そこには日常の一コマ以上の意味が隠れているように思えた。表面を覆うものを剥ぎ取り、奥にある白い素肌をあらわにする。その行為を見つめながら、俺は自分の心にも同じ作業を試みる。虚飾を剥ぎ、欲望を洗い流し、最後に残るのは何なのか。  ――もし、すべてを剥ぎ取り、洗い尽くしても、それでも残るものがあったなら。それはきっと、人間の...

五十歳、まだ女でいたい ― 女盛りのモヤモヤ

 五十歳になったとき、私は「もう女としての人生は一段落したのだ」と思い込もうとしました。  けれど、心も身体も、まだそう簡単には老いを受け入れてくれません。 https://youtu.be/WPvRvnJMbzA  鏡に映る自分の顔には、確かにシワもシミも増えました。それでも、メイクを整えてお気に入りのワンピースを着れば、まだ人前に出ても恥ずかしくない。  そう思うたび、心の奥底から「まだ女でいたい」という欲望が、どうしようもなくむくむくと湧き上がってくるのです。  夫とは長年連れ添いましたが、今では会話も生活の報告程度。視線が交わることすら少なくなりました。  夜も、ただ同じベッドに横になるだけ。  かつて抱きしめられ、求められた日々は遠い記憶のように薄れてしまっているのです。  それでも、体はまだ熱を知っている。  誰かに見つめられれば、胸が高鳴る。  指先が触れれば、頬が火照る。  そんな自分の感覚を、五十歳を過ぎてもなお手放せずにいるのです。  ある日、会社帰りに寄ったカフェで、若い店員に「そのネイル、とても素敵ですね」と声をかけられました。  ほんの一言なのに、心がざわつく。  「まだ褒めてもらえる」――その喜びは、思っていた以上に強烈でした。  帰り道、胸の奥に甘い熱が広がり、家に着くまでの足取りさえ軽く感じられたほどです。  女盛りの五十歳。  でも、その盛りは誰に向ければいいのだろう。  家庭では妻であり母である私に、女としての居場所はない。  仕事では上司として部下を導く立場、女を見せる場面ではない。  だからこそ、余計に「女でありたい」という欲望が心の中で膨らみ、持て余してしまうのです。  夜、ひとりでベッドに横たわると、昼間のささいな出来事が蘇ってきます。  あの店員の笑顔。  隣の部署の後輩の、さりげなく差し伸べてくれた手。  街中ですれ違った男性の視線。  ――それらを思い返すだけで、女としての自分がまだ生きていることを実感するのです。  けれど同時に、罪悪感や虚しさも押し寄せます。 「いい歳をして、何を期待しているの?」 「もう落ち着くべき年齢でしょう?」  そんな声が、心の中で私を責める。  でも――心は正直です。  五十歳を過ぎたからこそ、女としての欲望はより鮮やかに、切実に疼いている。...

62歳、まだ女でいたい「指を添えるといいですよ」

 六十二歳になった今も、私は鏡の前に立つたびに「まだ女でいられるのかしら」と問いかけてしまいます。  肌には年齢を隠せないしわが増え、髪には白いものが混じり始めました。だけど――心はまだ、若い頃と同じようにときめきを欲している。 https://youtu.be/DiJ31kufeNE  ある日の午後、私は友人に誘われて市民文化センターの講座に出かけました。陶芸教室。そこで出会ったのが、十歳年下の講師、浩介さん。  分厚い手で土を扱う姿。穏やかで落ち着いた声。作品を仕上げるときに見せる真剣な眼差し。  気づけば私は、彼の動きひとつひとつを追いかけていました。  「ここ、指をもっとしっかり添えるといいですよ」  彼が背後から手を伸ばし、私の手を包み込む。その瞬間、胸の奥に熱が走りました。  六十二歳の私が、四十代の男性に触れられてこんなにも揺れるなんて――。  家に帰ってからも、彼の手の感触が消えません。 「いけないわ、もうおばあちゃんになろうとしているのに…」  そう思っても、頬に浮かぶ赤みは消えない。むしろ、若い頃のように眠れない夜を過ごすなんて。  次の教室。私は気合を入れて、お気に入りのレースのブラウスを身につけました。 「先生、今日の作品はどうかしら?」  彼が微笑む。「とても柔らかい形ですね。…なんだか、あなたに似ています」  その言葉が甘く胸に突き刺さる。  六十二歳の私に「似ている」と言われて、ときめかないはずがないのです。  教室が終わり、片づけを手伝っていたとき。 「よかったら、このあとお茶でもいかがですか」  彼の何気ない誘いに、心臓が跳ねました。  カフェの窓際。穏やかな会話の中で、彼はこう言ったのです。 「最初にお会いしたときから、不思議に惹かれるものを感じていました」  理性が叫びます。――娘より年下の彼。  だけど、女としての私の心は震え、渇いた土が雨を吸うようにその言葉を受け入れてしまうのです。  帰宅して、夜。  ひとりベッドの中で彼の言葉を思い返し、私は女である自分を確かめるようにシーツに身を沈めました。  六十二歳。もう恋など関係ないと思っていた。  けれど、女性として誰かに必要とされたい、抱きしめられたい――その欲望は、消えるどころかますます鮮やかに燃え上がっているのです。  「まだ女でいた...

五十歳、まだ女でいたい ― 娘の婚約者に心が乱れて

 五十歳になった私にとって、娘の成長は誇らしくもあり、同時にどこか寂しさを伴うものでした。 「お母さん、紹介したい人がいるの」 https://youtu.be/hRuNFvnxBXM  そう言われてリビングに迎え入れた瞬間、私の胸は不意に強く波打ちました。娘の隣に立つその青年――娘の婚約者。  背筋がすっと伸び、清潔感のあるスーツ姿。柔らかい笑みを浮かべて差し伸べられた手に、思わず私の指先が熱を帯びるのを感じてしまったのです。  ――いけない。  頭ではわかっています。私は母親であり、彼は娘の大切な人。にもかかわらず、その澄んだ瞳で見つめられた瞬間、女としての私の心が揺れてしまったのです。  夕食の席。賑やかな会話の中で、ふと彼の視線とぶつかりました。目が合ったのは一瞬だったはずなのに、なぜか心臓の鼓動は速まり、喉が渇き、頬が火照る。 「お母さん、お料理本当に美味しいです」  そう褒められ、笑顔を返した瞬間、私は女としての歓びを覚えてしまったのです。五十歳を過ぎても、まだ誰かに女として見られたいと願っている――そんな自分に気づかされ、戸惑いました。  娘が席を外したほんの数分。 「お母さん、娘さんの笑顔はあなたにそっくりですね」  その言葉とともに、彼の瞳が私の顔を見つめる。気のせいでしょうか。ほんの少しだけ、柔らかな熱を帯びていたように思えたのです。  胸の奥で「だめよ」と囁く理性。けれど、その一方で「まだ、私も女でいられるのかもしれない」と甘く震える心。  夜、布団に入っても眠れませんでした。  娘の幸せを願うべき母親の私が、娘の婚約者を思い浮かべて心を乱すなんて――。  けれど、五十歳を迎え、閉じかけていた心の扉を彼の笑顔が無遠慮に開いてしまったのです。  翌日、たまたま二人きりになる時間が訪れました。娘が席を外し、私と彼だけがリビングに残った数分。 「昨日は本当にごちそうさまでした。お母さん、すごく若々しいですね」  軽い言葉のはずなのに、その声が耳朶を打つたび、女としての自尊心が疼き、心がざわめく。  わずかに触れた指先。彼の温もりが残って離れない。  ほんの一瞬、彼の瞳に吸い込まれるように見つめ返してしまった私――。  理性が叫びます。「いけないことよ」。  でも、欲望が囁きます。「まだ女でいたいでしょう?」と。  娘の幸せと、私自身の女としての感情―...

五十歳、まだ女でいたい ― 同窓会で揺れる心

https://youtu.be/Fu9p_BUmpgM 鏡の前で、私は深く息をついた。 今夜は高校の同窓会。 五十歳になった私にとって、懐かしい仲間との再会は、正直なところ気が重い。 年齢を重ねた自分をどう見られるのか、不安が胸に広がっていた。 「……でも、もう一度、あの頃の私を取り戻したい」 真紅の口紅を引き、少しだけ胸元の開いたワンピースを選んだ。 夫に「行ってくるわ」と告げても、彼はテレビから目を離さず、ただ「うん」と返すだけ。 寂しさを押し隠して、私は会場へ向かった。 ホテルの宴会場に入った瞬間、ざわめきと笑い声が耳に飛び込む。 懐かしい顔が次々と目に入る中―― 視線が絡んだ瞬間、時が止まった。 「……浩司?」 そこに立っていたのは、学生時代、私が密かに想い続けた初恋の人。 彼もまた驚いたように目を見開き、そして柔らかく笑った。 「美沙子……全然変わってないな」 その言葉に、胸が熱くなった。 変わったはずなのに。変わらないわけがないのに。 でも彼の瞳は、あの頃のまま、私を見ていた。 乾杯が終わり、時間が経つにつれて、私と浩司は自然と隣に座っていた。 思い出話に花を咲かせ、笑い合ううちに、胸の奥がどんどん締めつけられていった。 「美沙子、あの時……実は俺、お前のこと気になってたんだ」 グラスを傾けながら、彼が不意に囁いた。 心臓が跳ね、指先が震えた。 「やめてよ……今さら、そんなこと……」 口ではそう言いながらも、視線を逸らせなかった。 彼の瞳に吸い込まれそうで、唇が乾いていく。 二次会を断って、私たちはホテルのラウンジへ向かった。 夜更けの静けさとほの暗い灯り。 窓の外には都会の灯りが滲み、まるで夢の中にいるようだった。 「綺麗だな……美沙子」 その声は、今の私を指しているのか、過去の私を見ているのか。 答えを探すより早く、彼の指先が私の髪に触れた。 「……っ」 五十歳になって、こんなにも心と体が震えるなんて思わなかった。 夫にも、もう長い間触れられていない髪を、浩司の指がゆっくり撫でる。 その温もりに、全身が甘くしびれていった。 「だめよ……私は妻なの」 「わかってる。でも……お前を見てると、あの頃に戻りたくなるんだ」 彼の声は低く、熱を帯びていた。 触れ合いそうな距離で、互いの吐息が混ざる。 抗う心と、求める心...

五十歳、まだ女でいたい ― 雨宿りの夜に触れた吐息

秋の夕暮れ、突然の雨に私は立ち尽くしていた。 折りたたみ傘を持っていなかった私は、濡れるまま駅前の小さなカフェに駆け込んだ。 「美沙子さん!」 https://youtu.be/CghovR1iPVk 振り返ると、そこにいたのは涼介くんだった。 スーツの肩が雨で濡れていて、それでも笑顔は明るくて……私は胸を締めつけられた。 「偶然ですね。よかったら、一緒に……」 二人並んで座った小さなテーブル。 窓の外では雨粒がガラスを打ち、街灯の光を滲ませていた。 私はワイングラスを指でなぞりながら、彼の横顔を盗み見た。 若々しい輪郭、伏せた睫毛の影。 それを見ているだけで、胸がざわついて仕方なかった。 「美沙子さんって……いつも香りがいいですね」 不意に彼がそう言った。 心臓が跳ねて、思わず笑ってごまかした。 「そんなこと……気のせいよ」 「いえ、ほんとに。落ち着くんです」 彼が少し身を寄せた瞬間、彼の体温と雨の匂いが混じり合って、私の全身を包んだ。 その距離は、罪を予感させるほどに近くて――私は呼吸を忘れた。 家に帰れば、夫はいつものようにソファで眠っている。 その姿を横目に見ながら、私は心の中で呟いた。 「私を見てくれる人が、他にいる……  私を、女として感じてくれる人が……」 罪悪感はあった。 でも、それ以上に抗えない欲望が心を占めていた。 翌日、残業を終えた帰り道。 またしても雨が降り出し、私と涼介くんは同じ屋根の下に駆け込んだ。 小さなアーケード。二人きりの空間。 「また一緒ですね」 「ほんとに……」 私は濡れた髪を整えていた。 そのとき、涼介くんがそっとタオルを差し出してくれた。 「風邪ひきますよ」 彼の手が私の髪に触れた瞬間、体が小さく震えた。 こんなにも近い距離で、誰かに触れられるなんて……。 「美沙子さん」 低い声で呼ばれて、私は彼を見つめてしまった。 吐息が触れるほどの距離。 雨音が、二人だけの世界を覆い隠してくれる。 「……だめ、よ」 そう言いながらも、私はその場から動けなかった。 背中に走る熱、胸の鼓動、唇が乾く。 心と身体が正反対の声をあげていた。 その夜。 鏡の前に座った私は、濡れた髪をほどき、赤い口紅を引いた。 そこに映る自分は、妻でも母でもなく――欲望に震える女だった。 「私はまだ……女。  まだ、...

色っぽい義理母の再婚…最後の哀愁デートに隠された涙と欲望

男として、忘れられない一日がある。 あれは、義理の母――いや、もうすぐ他人になってしまう女性との、最後のデートの日だった。 義母は50代。年齢を重ねてなお、色っぽさを失わない人だった。 薄化粧に漂う香水の匂い、そして、どこか憂いを帯びた微笑み。 再婚することが決まってから、その笑顔はさらに柔らかくなったように見えたが……俺には、どうしても受け止めきれない感情があった。 「今日は……付き合ってくれてありがとうね」 義母が言った。 いつもの落ち着いた声なのに、その裏にかすかな震えを感じた。 俺は笑って答えるしかなかった。 「いいですよ。最後かもしれないですからね」 “最後”という言葉に、自分でも胸が締め付けられる。 彼女は俺にとって、ただの義母ではなかった。 父が亡くなってから数年、女手ひとつで家庭を支えてくれた。 俺にとっては母であり、しかしどこかで“女”として意識してしまう存在でもあった。 駅前の喫茶店。 昔から二人でよく立ち寄った場所だ。 窓際の席で向かい合うと、あの頃の思い出が一気によみがえる。 義母はカップを手に取り、少し遠くを見ながらつぶやいた。 「再婚するなんて、ね。あなたのお父さんには、申し訳ないと思うのよ」 「そんなこと……」と俺は言いかけて、言葉を飲み込んだ。 心の中で叫びたかった。“再婚なんかしてほしくない”と。 だけど、口に出せば、すべてが壊れる気がした。 義母の指先が、カップの縁をなぞる。 その仕草が妙に色っぽく見えてしまう。 俺は視線をそらすことができなかった。 「あなたがいてくれたから、ここまでやってこれたの。 ……でもね、女って、やっぱり弱いのよ。誰かに寄り添いたいって思ってしまう」 そう言った彼女の瞳には、涙がにじんでいた。 その涙が、俺の心を大きく揺さぶる。 喫茶店を出て、夕暮れの河川敷を歩いた。 川面に映るオレンジ色の光。 秋風に揺れる髪を見つめながら、俺はようやく口を開いた。 「義母さん……幸せになるんですよね?」 彼女は小さくうなずき、そして俺の腕にそっと手を重ねた。 その温もりが、胸の奥まで染み込んでくる。 理性ではわかっている。これは“最後”の思い出。 もう二度と、この距離で触れ合うことはない。 「あなたにとっては、迷惑な存在だったかしら」 「そんなこと、絶対にないです。俺にとって...

五十歳、まだ女でいたい ― 禁断の吐息に溺れて

夜更けのリビング。 テーブルに置いたワイングラスの赤が、揺れるランプの灯りに艶やかに映し出されていた。 私はひと口、ワインを含んでから、鏡に映る自分をじっと見つめた。 「……ねぇ、私、まだ女でいられるのかしら」 指でそっと頬をなぞる。 そこには若い頃にはなかったシワや、少し緩んだ輪郭。 だけど、ふと浮かんだ言葉は―― 「まだ終わってなんかいない……」 https://youtu.be/j6g4laZsiW8 夫は相変わらず仕事一筋。 娘はもう自立して家を出て行った。 残されたこの家で、私は「妻」でも「母」でもなく、ただの影のように存在している。 夕飯を用意しても、夫の返事は素っ気ない「ありがとう」だけ。 触れ合うことも、見つめ合うことも、もう長い間なかった。 そんな乾いた日々の中で―― 彼に出会ってしまった。 新しく職場に配属された青年、涼介くん。 笑顔が眩しくて、何気ない仕草にまで心を揺さぶられる。 「美沙子さん、この資料お願いできますか?」 「……ええ、もちろん」 名前を呼ばれるたび、胸の奥が熱くなるの。 あの頃の私が蘇るように。 ある日の夕方、偶然二人きりで残業になった。 オフィスの空気はしんと静まり返り、コピー機の音だけが響いていた。 「いつも助けてもらってばかりで……僕、美沙子さんには感謝してます」 そう言いながら、彼が私の手に触れた瞬間―― 電流が走るように、身体が震えた。 「……っ」 慌てて手を引いたけれど、残った熱は消えなかった。 彼の指先の感触が、ずっとそこに焼き付いているようで……。 帰り道、私はわざと遠回りをして夜風に当たった。 頬をなでる冷たい風さえ、熱を冷ますことはできなかった。 「だめよ……私は妻なのよ」 「でも、でも……女でもあるのよ」 その声が心の奥でせめぎ合う。 その夜、ベッドに横たわっても眠れなかった。 隣には無防備に眠る夫。 私は目を閉じ、涼介くんの笑顔を思い出していた。 「美沙子さん……きれいです」 もし彼にそう囁かれたら――。 私はきっと、抗えない。 胸の奥で、抑えきれない熱がどんどん膨らんでいく。 シーツを握りしめ、唇を噛み、必死にその衝動を押さえ込んだ。 「どうして……こんなにも欲してしまうの……?」 翌日、鏡の前で口紅を引いた。 鮮やかな赤が、唇に命を吹き込む。 その瞬間、...