夜更けのリビング。 テーブルに置いたワイングラスの赤が、揺れるランプの灯りに艶やかに映し出されていた。 私はひと口、ワインを含んでから、鏡に映る自分をじっと見つめた。 「……ねぇ、私、まだ女でいられるのかしら」 指でそっと頬をなぞる。 そこには若い頃にはなかったシワや、少し緩んだ輪郭。 だけど、ふと浮かんだ言葉は―― 「まだ終わってなんかいない……」 https://youtu.be/j6g4laZsiW8 夫は相変わらず仕事一筋。 娘はもう自立して家を出て行った。 残されたこの家で、私は「妻」でも「母」でもなく、ただの影のように存在している。 夕飯を用意しても、夫の返事は素っ気ない「ありがとう」だけ。 触れ合うことも、見つめ合うことも、もう長い間なかった。 そんな乾いた日々の中で―― 彼に出会ってしまった。 新しく職場に配属された青年、涼介くん。 笑顔が眩しくて、何気ない仕草にまで心を揺さぶられる。 「美沙子さん、この資料お願いできますか?」 「……ええ、もちろん」 名前を呼ばれるたび、胸の奥が熱くなるの。 あの頃の私が蘇るように。 ある日の夕方、偶然二人きりで残業になった。 オフィスの空気はしんと静まり返り、コピー機の音だけが響いていた。 「いつも助けてもらってばかりで……僕、美沙子さんには感謝してます」 そう言いながら、彼が私の手に触れた瞬間―― 電流が走るように、身体が震えた。 「……っ」 慌てて手を引いたけれど、残った熱は消えなかった。 彼の指先の感触が、ずっとそこに焼き付いているようで……。 帰り道、私はわざと遠回りをして夜風に当たった。 頬をなでる冷たい風さえ、熱を冷ますことはできなかった。 「だめよ……私は妻なのよ」 「でも、でも……女でもあるのよ」 その声が心の奥でせめぎ合う。 その夜、ベッドに横たわっても眠れなかった。 隣には無防備に眠る夫。 私は目を閉じ、涼介くんの笑顔を思い出していた。 「美沙子さん……きれいです」 もし彼にそう囁かれたら――。 私はきっと、抗えない。 胸の奥で、抑えきれない熱がどんどん膨らんでいく。 シーツを握りしめ、唇を噛み、必死にその衝動を押さえ込んだ。 「どうして……こんなにも欲してしまうの……?」 翌日、鏡の前で口紅を引いた。 鮮やかな赤が、唇に命を吹き込む。 その瞬間、...