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五十歳、まだ女でいたい ― 同窓会で揺れる心


https://youtu.be/Fu9p_BUmpgM


鏡の前で、私は深く息をついた。
今夜は高校の同窓会。
五十歳になった私にとって、懐かしい仲間との再会は、正直なところ気が重い。
年齢を重ねた自分をどう見られるのか、不安が胸に広がっていた。

「……でも、もう一度、あの頃の私を取り戻したい」

真紅の口紅を引き、少しだけ胸元の開いたワンピースを選んだ。
夫に「行ってくるわ」と告げても、彼はテレビから目を離さず、ただ「うん」と返すだけ。
寂しさを押し隠して、私は会場へ向かった。


ホテルの宴会場に入った瞬間、ざわめきと笑い声が耳に飛び込む。
懐かしい顔が次々と目に入る中――
視線が絡んだ瞬間、時が止まった。

「……浩司?」

そこに立っていたのは、学生時代、私が密かに想い続けた初恋の人。
彼もまた驚いたように目を見開き、そして柔らかく笑った。

「美沙子……全然変わってないな」

その言葉に、胸が熱くなった。
変わったはずなのに。変わらないわけがないのに。
でも彼の瞳は、あの頃のまま、私を見ていた。


乾杯が終わり、時間が経つにつれて、私と浩司は自然と隣に座っていた。
思い出話に花を咲かせ、笑い合ううちに、胸の奥がどんどん締めつけられていった。

「美沙子、あの時……実は俺、お前のこと気になってたんだ」

グラスを傾けながら、彼が不意に囁いた。
心臓が跳ね、指先が震えた。

「やめてよ……今さら、そんなこと……」

口ではそう言いながらも、視線を逸らせなかった。
彼の瞳に吸い込まれそうで、唇が乾いていく。


二次会を断って、私たちはホテルのラウンジへ向かった。
夜更けの静けさとほの暗い灯り。
窓の外には都会の灯りが滲み、まるで夢の中にいるようだった。

「綺麗だな……美沙子」

その声は、今の私を指しているのか、過去の私を見ているのか。
答えを探すより早く、彼の指先が私の髪に触れた。

「……っ」

五十歳になって、こんなにも心と体が震えるなんて思わなかった。
夫にも、もう長い間触れられていない髪を、浩司の指がゆっくり撫でる。
その温もりに、全身が甘くしびれていった。


「だめよ……私は妻なの」
「わかってる。でも……お前を見てると、あの頃に戻りたくなるんだ」

彼の声は低く、熱を帯びていた。
触れ合いそうな距離で、互いの吐息が混ざる。
抗う心と、求める心がせめぎ合って、私は目を閉じた。

ほんのわずかに唇が触れそうになった瞬間――
ラウンジの扉が開き、スタッフが入ってきた。
私たちは慌てて姿勢を戻したけれど、胸の鼓動は収まらなかった。


家に帰ると、夫はいつものように寝息を立てていた。
その隣に横たわりながら、私は天井を見つめていた。

「どうして……私はまだ、女でありたいのだろう」
「愛されたい……抱きしめられたい……」

初恋の人に触れられた髪の感触が、何度も蘇る。
罪悪感よりも、欲望が鮮やかに燃え上がる。


鏡の前に立ち、口紅を塗り直す。
唇に浮かぶ赤は、まるで欲望の炎のようだった。

「五十歳……それでも、私はまだ女。
 あの頃と同じように、愛に揺れて、熱くなれる女なのよ」

そうつぶやいた瞬間、再び胸の奥から熱が込み上げてきた。
初恋と、禁断の欲望が、これからの私をどこへ連れていくのか――誰にもわからない。


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