夫が亡くなって半年。
季節は移ろっても、心の中の空白だけは埋まらない。
朝起きても、隣にあるはずの寝息がもうない。
食卓に並ぶ湯気の立たない味噌汁を見て、私はまたひとつ、ため息を落とした。
そんなある日、夫の後輩だという男が仏壇に手を合わせに来た。
「お世話になりましたから」と頭を下げる姿が、あの人の若いころに少し似ていた。
帰り際、彼が言った。「ひとりは…つらいでしょう。無理なさらないでくださいね」
その優しい声に、心の奥がふっと緩んだ。
それから時々、彼は花を持って訪ねてくるようになった。
最初は気遣いだと思っていたけれど――ある午後、雨音を聞きながら二人でお茶を飲んでいた時、彼の指がそっと私の手に触れた。
ほんの一瞬。けれど、その温もりがあまりにも懐かしかった。
誰かに触れられることの意味を、私はずっと忘れていたのだ。
「ごめんなさい」と言いかけた言葉は喉で溶けた。
罪悪感と、どうしようもない寂しさが胸の奥でせめぎ合う。
夫の写真がこちらを見ている気がして、思わず視線を逸らした。
でも――その午後、初めて泣くことができた。
長い孤独を抱きしめ続けていた心が、誰かの手でほぐされたようだった。
五十歳、まだ女でいたい。
もう一度、誰かに必要とされたい。
それはきっと、許されない想いなのかもしれない。
けれど、胸の奥で小さく灯った“女”としての炎を、私は消すことができなかった。
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