娘に勧められて始めたSNS。最初は料理の写真や庭の花を載せるだけのつもりだった。
でも、ある日「いいね」をくれた一人の男性――アカウント名は“蒼”という若い人だった。何気ないコメントのやり取りが、いつの間にか毎晩のように続くようになった。
「今日の写真、すごく綺麗ですね」
「奥さんが撮ったんですか?」
そんな軽い言葉に胸がふっと温かくなる。夫とはもう長く、こんな他愛ない会話さえ減っていたから。
蒼くんは三十代前半だという。少し無骨で、でも優しい言葉づかい。
「あなたの文章、なんだか落ち着くんです」
その一言が、どうしてこんなに嬉しいのだろう。画面の向こうの彼に、ほんの少しだけ“女として”見られている気がした。
やがて彼が送ってきた一枚の写真。コーヒーを片手に、夜の街を見下ろす横顔。
その光景が、なぜか私の心を掴んで離さなかった。
――会ってみたい。
そう思った瞬間、自分の中で何かが音を立てて揺れた。
現実の私は五十歳、妻であり母。でも、スマホの画面を見つめる指先だけが、まだ恋をしている。
SNSの向こう側にいる彼に、惹かれてはいけないとわかっているのに――。
コメント
コメントを投稿