会議が終わった午後六時。
オフィスの灯りはひとつ、またひとつと消えていく。
残ったのは、私と――部長だけだった。
「今日も遅くまで、ご苦労さま。」
そう言いながら、彼はネクタイをゆるめ、窓の外を見た。
雨上がりの夜景が、ガラスに滲んでいる。
「少し、話せるか?」
その声に、私はゆっくりと頷いた。
部長の机の上には、まだ片付けられない書類の山。
けれど、ふたりの距離が近づくたび、紙の音さえ遠のいていった。
静かな部屋に、彼の香水とコーヒーの匂いが混ざる。
胸の奥で、何かがゆっくりとほどけていくのを感じた。
「秘書としてじゃなくて…君自身を、知りたかった。」
囁かれた瞬間、時間が止まった。
誰にも見せられない、オフィスの裏側。
それは、仕事という仮面を脱ぎ捨てた――
たった二人だけの、危うくて甘い秘密の時間だった。
コメント
コメントを投稿