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五十歳、まだ女でいたい ― あの夜の続き、してはいけない続き 50歳の同窓会。


 会場の照明が少し暗めなのは、中年たちの“優しさ”なのだろう。

 50歳の同窓会。

 久しぶりに会う同級生の笑い声と、懐かしい曲がゆっくりと空気を揺らしていた。

https://youtu.be/rqPIUMVV5c4


「村瀬、美沙子……だよな?」

 後ろから名前を呼ばれた瞬間、胸の奥が跳ねた。

 忘れようとしても忘れられない声。


「……高梨くん?」

「“くん”はやめてくれよ。もう50だぞ」

「ふふ、そうね。でも驚いたわ。来てたのね」


 軽く笑った彼の横顔に、息が止まりそうになった。

 30年前、卒業式の日、誰にも言えない秘密を抱かせた相手。

 ほんの短い“過ち未満”の出来事。

 あのとき、彼は私の頬に触れかけて??そのまま何も言わずに去った。


「ずいぶん変わったな、美沙子」

「年相応に、よ?」

「いや……綺麗になった。昔より、ずっと」


 そんなふうに言われたのなんて、いつぶりだろう。

 夫からも、もう聞かなくなった言葉。


「……やめてよ。からかわないで」

「からかってない。会った瞬間、胸が騒いだ」


 胸が騒いだのは、私のほうだ。


 しばらく近況を話したあと、彼はワイングラスを回しながら言った。


「実はさ……今日来た理由、ひとつだけなんだ」

「何?」

「おまえに会うためだよ」


 真っ直ぐな視線に、心がほどけそうになった。


「そんな、映画みたいなこと……」

「映画でも言わないよ。50歳でこんなこと言うなんてさ」

「ほんとに……どうしたの?」

「後悔してたんだ。ずっと」


 後悔?

 彼に?

 私に?


「卒業式のあの日……おまえの手、握れなかっただろ」

「……覚えてるの?」

「忘れるわけない。あのとき……触れたら、戻れなくなると思って」


 彼は少し笑って、グラスを置いた。


「でもな、美沙子。もう50だ。戻れなくなることなんて、もうほとんどない」

「戻れなくなること、あるわよ」

「旦那さんのこと?」


 その一言に、息が詰まった。


「……そう。私、結婚してる」

「知ってるよ」

「どうしてそんな平気な顔してるの」

「だって、会いたかったんだから」


 その直球さが、残酷で甘い。


「ちょっと外、歩かない?」

「……だめよ」

「なんで?」

「誰かに見られたら……」

「見られたら、“昔の同級生と話してた”って言えばいい」


 その軽さが、余計に危険だった。


「美沙子……逃げるなよ」


 逃げられるなら、とっくに逃げている。

 同窓会の会場の外に出ると、夜の空気がひんやりと肌に触れた。


「覚えてる? 昔、帰り道で……」

「言わないで」

「あのとき、手が触れそうになって??」

「言わないでってば」


 言ってほしくないのに、聞きたかった。


「……触れたかった」

 彼の声は、昔よりずっと深かった。


「美沙子」

「なに」

「手、出して」


 拒むはずだった。

 でも気づけば、私はそっと手を伸ばしていた。

 彼の手が触れる。

 それだけで、30年分の理性がきしむ音がした。


「……震えてるぞ」

「あなたが……こんなこと言うからよ」

「言わせたの、おまえだよ」


 彼は私の指をゆっくり包み込んだ。

 その包み方が、20代の頃よりずっと優しくて、ずっと深くて、ずっと危なかった。


「美沙子。もう、本当のこと言ってもいい?」

「……言わないで」

「言う」

「だめ」

「おまえに会えて、嬉しかった」


 思いがけない言葉に、目が熱くなった。


「……私もよ」

「え?」

「会いたかったのは、私もよ。ずっと……言えなかっただけ」


 彼はゆっくりと近づいてきた。

 大人になった私たちは、もう簡単に“青春”に逃げられない。


「旦那さんには……?」

「言えるわけないでしょう」

「だよな。じゃあ、これはふたりだけの秘密だ」


 彼の額が、私の額にそっと触れた。

 それだけで足が震えた。


「美沙子……」

「なに……?」

「今のままじゃ帰せない」


 その言葉で、完全に崩れた。


「……じゃあどうするの?」

「手、もう離さない」


 彼の指が、私の指をしっかりと絡める。


「背徳だな」

「ええ……とんでもなく」

「でも、止まらないだろ?」

「……止まらないわよ。こんなの」


 同窓会のざわめきが遠くで揺れ、

 私たちは暗い校庭の脇道で、もう二度と戻れない距離まで近づいていた。


 50歳の再会は、青春よりずっと残酷で、ずっと甘かった。


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