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背徳の夜…もうダメなの


薄暗い部屋の中、雨音が静かに窓を叩いている。リビングの薄いカーテンがかすかに揺れ、部屋の中に冷たい風が入り込んでいた。美咲は無言のままテーブルに座り、グラスを片手にじっとワインを見つめていた。赤い液体がグラスの中でゆっくりと揺れ、彼女の心を映し出すかのように不安定だった。


ドアが開き、亮介が入ってきた。彼は一瞬、彼女の背中を見て戸惑った表情を浮かべたが、すぐに笑みを取り繕い、ゆっくりと彼女に近づいた。


「こんな夜に呼び出されるとは思わなかったよ、美咲。」亮介は軽く笑いながら、彼女の向かいに座った。


美咲は顔を上げず、静かに口を開いた。「どうして来たの?」


「お前が呼んだからだろう?」彼は少し冗談っぽく答えたが、美咲の冷たい態度に気付いて、すぐに表情を引き締めた。「何かあったのか?」


彼女はゆっくりと顔を上げ、亮介をじっと見つめた。彼女の目には、深い悲しみと葛藤が渦巻いていた。「私たち、こんなこと続けていていいの?」


亮介はその言葉に一瞬息を呑んだが、すぐに気を取り直して答えた。「何が悪いんだ?お互い、大人だろう?」


美咲はグラスをテーブルに置き、彼の目を避けるように視線を外した。「大人だからこそ、これ以上はもう…終わりにしなきゃいけないのよ。」


「終わりにする?」亮介は椅子に深く座り直し、少し苛立った声を出した。「俺たちは何も悪いことをしてるわけじゃないだろ。お前は、俺のことが好きなんだろ?」


美咲は苦笑した。「好きよ。でも、それだけじゃ…もうダメなの。」


「何が問題なんだよ?」亮介は苛立ちを隠せないまま、美咲に詰め寄った。


「問題は…私はまだ夫と別れていないってことよ。」彼女の言葉が部屋に重く響いた。


亮介は一瞬固まった。そして、ため息をついて彼女を見つめた。「お前の旦那とはもう終わってるんだろ?気持ちなんてないじゃないか。」


「そうかもしれない。でも、彼は何も知らない。彼はまだ私を信じてる。それを裏切ってるの、私なのよ。」美咲の声は震えていた。彼女の心には罪悪感が押し寄せ、胸が痛んでいた。


亮介は静かに立ち上がり、彼女の前に歩み寄った。そして、美咲の肩に手を置き、優しく彼女を見つめた。「美咲、俺たちはお互いを求め合ってるんだ。それは間違いじゃない。」


彼女はその手を感じながらも、涙が目に溢れた。「でも、私にはまだ責任がある。夫を傷つけたくない。」


「お前が今幸せじゃないことは、誰にも隠せない。俺がその代わりになってやれる。だから、もう迷うなよ。」亮介は美咲の頬に手を伸ばし、彼女の涙を拭い取った。


美咲はその手を感じ、心の中で激しく揺れていた。背徳的な関係だとわかっていながらも、彼女の心は亮介に引き寄せられていた。


「わかってる…でも、もう少し時間が欲しいの。夫とちゃんと向き合って、それから…」美咲は亮介の手をそっと振りほどき、立ち上がった。


亮介はしばらく沈黙したが、最後に静かに言った。「俺はいつでも待ってる。だけど、その時が来るのを信じてる。」


美咲は何も答えず、ただ亮介の背中を見つめたまま、その夜の重い静寂の中に二人の秘密が沈んでいくのを感じていた。


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