午後三時。 昼下がりの光が、薄いレースのカーテンを透かして床に模様を描いていた。 この時間帯の住宅街は、まるで昼寝をしているみたいに静かだ。 遠くで洗濯機の回る音、郵便バイクのエンジン、そして――それをかき消すように、微かに響く声。 https://youtu.be/RgnTMlDZ83w 最初はテレビの音かと思った。 けれど、違う。 息を押し殺したような、誰かの吐息。 隣の家の窓が少しだけ開いていて、そこから漏れている。 胸がざわついた。 「まさか……」と呟きながらも、足は勝手に窓辺へと近づく。 カーテンを少しだけ指でずらすと、向かいの二階の影が見えた。 揺れている。 風ではない――人の動きのリズムだ。 私はすぐにカーテンを戻した。 見てはいけない、そんなこと分かっているのに、耳が勝手に音を追ってしまう。 その声が、どこか自分の中の何かをくすぐった。 忘れていた温度。 もう感じないと思っていた、あの頃の鼓動。 外では洗濯物がゆれている。 世界は平和な午後を続けているのに、私の心だけが妙に熱を帯びていた。 「……どうして、こんな音に、心が動くのかしら」 カーテンの向こうの世界は、まるで別の季節のように息づいている。 静かな住宅街に響くその旋律は、私の中の眠っていた何かを、確かに呼び覚ましていた。