俺は五十二歳。 会社では「部長」、家では「お父さん」と呼ばれる、ごく普通のサラリーマンだ。 そんな俺が、今夜もホテルの一室で、三十九歳の倉橋美咲と向き合っている。 https://youtu.be/oR6xPM2N4bc 彼女は取引先の総務課で働く、いつも穏やかな笑顔の人妻だ。 出会って一年。最初は仕事の打ち合わせが終わった後の軽いお茶。 それがいつしか、月に一度か二度、こうして二人きりで話す間になった。 今夜も、彼女から「少しだけ、お話しできませんか」と連絡が来た。 夫は出張で不在。子どもはもう寝ている時間だという。 部屋に入ると、彼女はソファに腰を下ろし、膝の上で指を絡めていた。 なんだか落ち着かない様子だ。 「どうした? 珍しく緊張してるみたいだな」 俺が笑いながら言うと、彼女は小さく首を振った。 「だって……部長の前だと、いつも変になっちゃうんです」 「変?」 「声が震えるし、顔が熱くなるし…… まるで学生の頃に戻ったみたいで」 俺は隣に座った。 肩が触れない距離。 でも、それだけで空気が少し変わる。 「俺もだよ」 俺は正直に言った。 「君と会う日は、朝から落ち着かない」 彼女は驚いたように顔を上げた。 「部長まで……?」 「ああ。五十二のおじさんが、こんな気持ちになるなんて自分でも笑える」 彼女はふっと笑って、でもすぐに目を伏せた。 「ねえ、部長…… 触ってないのに、身体の奥が熱くなってるって、言ったら変ですか?」 その一言で、俺の胸がどきりと鳴った。 「……変じゃない」 俺はできるだけ落ち着いて答えた。 「俺も、君の声だけで胸が締めつけられる」 彼女は頬を膨らませ息を吐いた。 「夫には絶対言えない言葉なのに…… 部長には、つい本音が出ちゃう」 「俺も同じだ。 妻の前では絶対言えないことを、君にだけ言える」 静かな時間が流れた。 時計の秒針だけが、こつこつと音を立てる。 「触ってないのに、こんなに熱くなるなんて…… 私、どうかしてるのかもしれません」 「俺もだよ。 君の瞳を見てるだけで、胸の奥が疼くような気がする」 彼女はゆっくりと顔を上げた。 目が潤んでいる。 「部長……好きです」 「俺もだ」 「でも、だめですよね。私たち」 「わかってる」 「それなのに……」 「それなのに、会いたくなる」 彼女は小さく頷いた。 「帰らなきゃいけない時間なのに...